夢よりDreaming

感想とかメモとか妄想とか

上向いて、胸張って、前!

 

舞台、それいゆを観劇した。

「美しく生きるとは何か」がテーマであった。


中原先生以外の登場人物全員が、痛いほど人間らしく、魅力的だった。

特に私の胸を強く締め付けた登場人物は、五味さんと桜木さんだ。

 

五味さんの第一印象はゴミのような人。
だけれど言ってることがいちいちぐさりと刺さってきた。「偽物を売ってもそれを買う人がいる」・・・思い当たる節が多くある。

そしてなにより、不器用ながら愛のある人だった。舞子が中原先生に少女の友への想いを語っている時、そんな舞子の姿を優しい眼差しで見たいたのが五味さんだった。雨の中で泣く舞子の肩に着物を掛けてあげるとその着物は投げ捨てられ、涙を少し強引に拭えばその手は振り払われ。その後の五味さんの切ない顔に、また胸がぎゅっとなった。
結婚し、その後の生活の中で少女の友を舞子から奪ったものの、結局捨ててはいなかった五味さん。戦時中、舞子に少女の友をあげていたのは、ただの取引相手の家族のご機嫌取りだけではなかったのかもしれない。舞子の笑顔が見たいという、そんな思いがあったからなのかもしれない。

 

桜木さんはいつもニコニコしていた。変わり者の先生とそれに戸惑うお客さんの間を取り持って、そのやりとりだったりは観ていて楽しいシーンが多かった。あのアトリエは桜木さんがいるからこそあたたかくてキラキラした場所だったのではないかなと思う。

ビジネスチャンスを見送った先生に納得のいかない桜木さんの気持ちも、誘惑に負けて他でイラストを描いてしまった桜木さんの気持ちも、理解できないわけがない。先生に解雇されるとき、桜木さんは怒りに任せて意見をぶつけるのではなく、自分は先生のように生きられないと苦しみを訴えるように話していた印象だ。
最後の登場シーンで編集長となった弥生さんに「あなたは他人にも自分にも、程よく甘いひとですから」と優しく諭されていた。なんて素敵な人なんだろうと、ここで改めて思った。

 

舞子は戦後、ストリッパーとなった。あぁして生きていくしかなかった舞子だって、先生を妬みながらもその才能を誰よりも評価していた編集長だって、そう。
中原先生の生涯を描いた舞台でありながら、ここには何人もの“人間”の生き様が含まれており、そのどれもが間違った生き方ではなかった。

中原先生は妥協を許さず自分に1番厳しくいた方だったし、その生き方こそが美しいのだと訴えられているとばかり思っていた私にとって、このことに気付かされた時はとても救われた気分だった。

「中原先生の人生こそが完璧な造形美である」と舞子は言っていた。だからこそ完璧すぎて、私は中原先生に“普通の”人間らしさを感じられなかったのかもしれない。
中原先生のように生きたいと思った。美しく生きたいと思った。
しかし、現実はそううまくはいかない。実際中原先生自身もこの生き方は間違っているのだろうかと苦しむ場面があった。自分の中に生じている矛盾と闘う場面も何度もあった。中原先生にだって弱い気持ちもあるんだと思ったけれど、そんな感情と向き合えている時点で到底敵わないというか、“普通”ではないなと思った。

そんな先生に、天沢さんは「間違っていますよ」と言ったあと「あなたは誰よりも美しく生きていましたよ」と言ったのだ。先生と同時に、見ているこちらまでまた救われたような気分になれた。

 

一度しか見に行けなかったけれど、この一度を一生大切にしたいなと思った。本当に、この作品に出会えてよかった。中原淳一先生を知ることができてよかった。

拙い文章だということは自覚しているし、記憶力がすこぶる悪いので多少盛っているところもあるかもしれない。だけど私は今、書きながらまた涙が止まらなくなってきた。自分で書いて自分で泣いてる。もう意味わかんない。


美しく生きるとは何か

 

その答えを求めて行ったはずなのに、余計に考えさせらることになるとは思わなかった。あの日から、ずっとずっと考えている。私が私なりに美しく生きるには、何をどうすればいいのだろう。きっと答えはしばらく見つからないけれど、今の私にできること、それは

 

上向いて、胸張って、前!!